大日本天狗党絵詞 4巻感想&総括 

 最終巻です。
 4巻はアクションシーンが多かったです。Z氏に自衛隊が攻撃したり泥人形たちが刀を持ってしのぶを襲いにきたり。襲撃者が泥人形のしのぶのそのまたコピーですから、全員が同じ顔をしていたのは不気味です。エルフェンリートぽくて最終局面の感がありますが。
4巻


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 しかしアクションの激しさとは裏腹に、ヒライのシーンはどれも静かな雰囲気があって緩急のつけ方がすごいです。
 結局ヒライもテングを見たことで天狗としてのアイデンティティを失うことになりましたが、その肉体は抜け殻とはなりませんでした。人間の幸南と共に生きて、天狗から人間になるという目的も達成されず…。
 ヒライは天狗として自分の中から飛び去ったものを『魂』と言い換えています。「魂が僕を見ているのではなくて、地上に残された僕が飛んでいく魂を見ている」ということは、あくまでも自分は人であることを表しているのでしょうか。人ということ以外のアイデンティティを失って生きることとはどんな感じでしょうか。何にせよ、もの悲しい雰囲気があります…。

 天狗の国はどんどん人間らしくなり、保守主義になったり内紛が発生したりで、最終的にはZ氏が「帰る」と言って天狗の国も崩壊します。天狗の国も日本の兵器も全てが破壊されていくシーンにはカタルシスがあります。
 崩壊から逃げるさなかにしのぶと師匠が再会して対話するシーンがあるのですが、その静けさと結末は最高にクールです。本当に最終話らしい最終話です。天狗をやめたしのぶが最後に天狗の能力を一瞬だけ発揮するシーンは寄生獣っぽいですね。
 
 ラスト、しのぶは一人で立って生きていこうとするシーンで終わります。
 居場所を無くして天狗となったことのある彼女は、日本も天狗の国も無くした後にどこへ向かって生きていくのでしょうか。
 もう「天狗」や「師匠」なぞに頼らないのでしょうか。


総括


P8160026.jpg たまにあるじゃないですか。2chのAAにもなっている「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」という言葉。実はこの言葉の使われようが「大日本天狗党絵詞」を理解するキーとなっているわけです。
 一応ウィキペディアの天狗のページも閲覧してみましたが、天狗の形は日本においてはなかなか定まらなかったようです。名前、形、性質が備わってようやく『それ』は存在を認知されるようになります。そのような不定形の存在であるからこそ、天狗は色んな不可解な現象の理由として便利に使われてきたのかもしれません。
 現代では霊的な存在の全てを公式には否定しているわけですから、なかなか「天狗の仕業」などという言葉をリアルでは聞けません。まあなかなか物やサービスが売れない現況を「若者の○○離れ」に言い換えて思考停止していることを、現代版の天狗の仕業だと書いている面白い記事なんかもありますが。

 上記のような不定形で責任転嫁のしやすい天狗だからこそ、「天狗とは何か?」という疑問を持ちやすく、そして「アイデンティティ(自己同一性)」というテーマを描くには良い題材だったのではないでしょうか。

 天狗になる理由をこの漫画でまとめると、居場所が無いことを「自分は天狗だから」という理由にして逃げたから、他人が自分のことをそう言ってきたから、ということでしょうか。
 この世が自分たった一人ならば、そこに「人間」も「天狗」もありません。社会の中で居場所や名前がなくなれば「人間」から離れてしまうことになるため、天狗とは人間社会が存在することが前提となっている存在なのでしょうか。
 そしてまた人間は社会の中で求められることで、色んな役割を演じることになります。それは通常職業や地位になるわけですが、「師匠」や「天狗」を求められればそれを叶え、自分の居場所を作ることになるのでしょう。そのように自分の居場所を作ること、自分が何者かを自覚することによって自己同一性は確立されるわけですが、さてその居場所や地位を失ったら自分は何となるのでしょう。
 
 自己同一性の確立は逆に、その消失の危険性もはらんでいるのかもしれません。
 通常(?)自己同一性を失ったら「天狗」になることが出来るわけですが、天狗としての自己同一性も失ってしまえば次の逃げ場はどこなのでしょうか。自分は無能な人間であることを自覚して人間社会に戻るのか。カラスになった天狗たちは、ヒライと同様に魂を失った生物として生きていくことになるのでしょうか。
 天狗になることは誤っていることかもしれません。でも天狗を否定して魂さえも無くなってしまうのも、悲しいことです。
 
 ああ、結局わかりません。
 ラストシーンにしのぶがゆっくり立ち上がるように、惑いながら不可解な世の中を生きていかねばならぬのでしょうか。

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