大日本天狗党絵詞 1~3巻 感想 

大日本天狗党絵詞   作 黒田硫黄

 月刊アフタヌーンで1994年から連載されていた、全4巻の漫画です。
 黒田硫黄さんが初めて商業誌で連載した作品ですが、誰にも真似できなさそうなその画風やテーマに対するエネルギーは全く経験不足を感じさせません。

 一応新装版も出ており、こちらは3巻でまとまっています。
 
1巻


P8160021.jpg 序盤、この現代日本にも本体がカラスの天狗が人間と混ざって暮らしており、「師匠」と主人公の「しのぶ」に呼ばれる天狗が恐れ敬われていない現況を危惧して活動を始める、というようなあらすじです。
 しかしこの漫画に出てくる天狗たちには、あまり威厳が感じられませんね。カラスが本体だったり空を飛べたりするように、人間と比べたら明らかに『異種』なんですけど、間が抜けているところが多いです。
 1巻の時点では「平成狸合戦ぽんぽこ」に出てくる狸に近いですね。ああ、そういえばあの映画も人間に一泡吹かせるような内容でしたな。

 しかししのぶが自分の家に帰ってみたときに、すでに別の「しのぶ」が用意されていたシーンはちょっと悲しいシーンです。
 天狗が現代日本に居場所を無くしていくようにしのぶも居場所を無くし、そして天狗として能力に目覚めていく。しのぶのしのぶとしてのアイデンティティは、どうなっていくのでしょうか。

2巻


P8160022.jpg 大天狗であるZ氏の力を借りようとする師匠と、泥人形の「しのぶ」を救うためZ氏を探す高間教授、そしてその間で自分の居場所を探す「しのぶ」の活動が本格的に始まる2巻です。

 大天狗であるZ氏は確かにその名のとおり大きい天狗でしたが、言動からはあまり威圧感を感じさせません。外見が白人ぽかったり首が転がっても平気なところは不気味でしかないですが…
 しかしその能力は凄まじいです。Z氏が動くごとに津波などが起こって大参事となっていますが、ヘンテコなZ氏の言動もあってかなり不思議な状況となっています。

 この巻から「天狗論」が少しずつ登場してきたように思います。
 天狗とは、天狗と呼ぶ人間がいてこそ成り立つもので、いなければもはや天狗ではないようです。また、天狗とは人の居場所から去ったものたちのことであり、天狗の国を作って居場所を作ることは天狗のアイデンティティを揺らがせることのようです。
 確かにカラスが本体だったり空を飛んだりすることは人間のやることではありませんが、しかしその特徴で本当に『天狗』を証明できるのか?もし天狗としてのアイデンティティを失ってしまったらどうなるのか?

 天狗としても実際の活動においても取り返しがつかなくなってきている状況で、次巻に続きます。
 

3巻


P8160023.jpg 師匠、高間、Z氏が合流した下田から皆は離れ、各地で行動します。しのぶは天狗たちと自分のアイデンティティを捨てて北海道で心機一転の生活、師匠とZ氏は東京で天狗の国を作ろうとし、高間はとある生物を探す旅に出かけます。

 天狗が東京を支配し始めてからは漫画の雰囲気が変わった感じがあります。
 何だろうなあ、この感じ。もしかしたら「AKIRA」に似ているのかも。日本が崩壊しつつある中で微々たる力しか持たない主人公たちが、敵の目をかいくぐって形成逆転の切り札を手に入れようとするような流れ、王道ですね。

 3巻でも多くの天狗論が登場します。核心に踏み込んできた感があります。
 「自分が天狗だ」という人は帰る場所がない人のこと、「天狗の仕業だ」という時は不可解で説明できないものを説明するためになすりつけるもの。
 天狗党が信じる「天狗」とは、当初思い描いていたような妖怪ではなくて、もっと観念的なものが正体なのかもしれません。
 何にせよ、この漫画には『アイデンティティ』というテーマがあることがわかります。
 
 3巻では天狗だと信じられてきた絶滅危惧種の不可思議な生物「テング」を発見して、次巻に続きます。
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