梶井基次郎著 「檸檬」 感想 

雑記
 漫画はどんどん解消していけるけど、小説は溜まりまくる…
 漫画は一日で何冊も読めるけど、小説は数日でようやく1冊読めるくらいだからなあ

檸檬  梶井基次郎 著 

 新潮文庫の「檸檬」についての感想です。これはタイトルが檸檬となっていますが、中身は発表された(ほとんど)全ての梶井基次郎の作品が載っています。タイトルが作品の一つである「檸檬」となっているのは、梶井基次郎が初めて発表した作品が檸檬であり、梶井基次郎作品の中でも傑作の一つであったからでしょう。
 梶井基次郎は身体が弱く、31歳という若さで他界しています。しかし、そんな境遇であったからこそ、精神や考えは繊細であり普通の人には書けないような作品を作ることが出来たのでしょう。

 文庫本に載ってある作品の数はかなり多く、どれも普通の小説に比べれば短いものばかりなので、今回は自分が特に面白いと感じた作品を挙げて、その上で梶井基次郎作品全体の感想を書いてみましょうか。
 私が特に面白いと思った作品は、檸檬、城のある町にて、冬の蝿、かな。他の作品も面白いと思うけど、これらの作品は繊細な考えを描写しているのにも関わらず、とっつきやすくて理解しやすいので好きです。

 檸檬は、茫漠とした感じで町を彷徨っている青年が、檸檬の色や形、それを売っている店などに心が囚われてしまうような感じの話です。
 青年は何かみすぼらしいような物に強くひきつけられていて、壊れかかった街などを見るのが好きだったようです。健康的な生活とは縁の無い彼にとっては、そのような廃墟に同情するようになったような感じでしょうか。
 そんな彼が、八百屋で輝くばかりに目立っていた檸檬を気に入り、その色や形に見とれてしまいます。何か虚無的な雰囲気がただよう彼にとっては、檸檬は単純明快な真実を表していたのかもしれません。何をするにも苦痛で、好きだった画本を読むのも憂鬱だった彼は、ごちゃごちゃしている本棚に檸檬を置いて家に帰ります。ごちゃごちゃしていてなんかこう、すっきりしない現実を明快にさせるというような痛快さがあります。
 確かに私も檸檬を持つと、何か不思議な感じがしてきます。ただの果実なのに、ものすごく力強いような、そんな感じがします。

 城のある町にては、伊勢湾が近くにある町で青年が健康的な生活を送る話。梶井基次郎作品の中では、この作品が最も病気や陰鬱から程遠いものだと思います。
 「城のある町にて」では短いエピソードがいくつかあります。特に気に入ったのは、城跡の公園から町を見下ろす話。町を見下ろす爽快感や町の生活感などが繊細に描写されており、人間の生活を客観的にかつのどかに望むことができました。妹を無くした悲しみを、爽快な風景が癒してくれるという状況も、なかなか清々しいです。

 冬の蝿は巻末で「梶井基次郎最高傑作に挙げる人が多い作品」とも言われている話です。私もこの話が最も印象に残る話でした。弱々しい冬の蝿と、闇で閉ざされた山道を歩いていく話なのですが、作者の神経質とも言えるくらいの描写によって、人生の光と闇や生と死が描かれていると思います。
 青年はある谷間の旅館に長期滞在して病気の療養をしており、その部屋の中で死にかけの蝿を見ます。同情のような気持ちがあったのであえて蝿を殺さないようにしていたのですが、蝿は勝手に死んでいってしまいます。彼は外に出ていくのですが、なんとなく乗り合い自動車に乗ってしまい、何も無い闇の中で車を降りてしまいます。寒さがしんしんと身体を冷やしていきますが、彼は歩いて帰ろうとします。無事元の旅館に帰ると、蝿はいなくなっていた、という話です。
 この青年は冬の蝿のように惨めで何も出来ないような存在であると自分のことを考えていて、だからこそ蝿もその青年の部屋で生き続けられたというようなことを考えると、なかなか因果なものを感じてしまいます。彼が冬の蝿みたいなものだったからこそ、冬の蝿にとっての彼のように、世間に彼を生きさせるか殺すかを分けるような条件があるかもしれないと考えに至ったのでしょうね。生死を自分で決められない境遇の彼だからこそ、その絶望感が際立ってきます。
 青年が闇の中で歩いていくシーンでは静けさと孤独を感じましたが、ライトをつけた車が通り過ぎていくシーンを読むと、光の周りでは闇がいっそう際立つが闇の中では闇は目立たないというように、孤独も半端に社会の中でいるからこそ感じるのであって完璧に社会から逸脱してしまえばあまり感じないのではないか?という考えに私もなりましたよ。

 
 全体的に、梶井基次郎作品は病的で救いや希望の無い作品が多く、人生の孤独や焦燥、死が溢れている感じがします。作者自身に死が間近に迫っているからこそ、それらをリアルに描くことが出来たのだと私は思います。
 私が幼い頃に感じた形容できない不思議な感じもこの本では丁寧に描写されており、それがどのような意味を持つかを考えさせられましたよ。作者の感覚はナイフのように研ぎ澄まされていますが、作者は死ぬ前に人生の濃度を濃くして意図せずに太く短く生きたような感じがあって、どこか切ない感じ。
 「もっと長く生きていれば文豪になっていただろう」と言われている梶井ですが、死が間近に迫っていたからこそ、傑作を多く書くことが出来たのだと私は思うんですよね。少し残酷ですが。


檸檬 (新潮文庫)檸檬 (新潮文庫)
(2003/10)
梶井 基次郎

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